『レディ・ジョーカー』高村薫
2006 / 05 / 24 ( Wed ) 14:52:49
昨日のびっくり!から、少し落ち着いたそらです(*^_^*)
この作品は、ハードカバー2段組の860ページの大作です。 これだけの長さが必要であった作品だと思います。 重厚、骨太、といわれている高村薫ですが、この作品も重厚、骨太、そして、綿密な心理描写。 どっぷり堪能しました。 ただ、「臓腑をギュッとつかまれたような感じ」というか、「心が激しく揺り動かされる」みたいな、高村薫作品を読んでいるときに感じる「あの感じ」が私の中に生まれませんでした。 何でかなとず~っと考えているのだけれど、分かりません。 すごくいい作品だと思うのに。 タイミングのせいなのかな。思い当たること、ないけれど。。。。 ということで、正直に自分の感じで☆をつけることにします。 この作品ほど、湧き上がる感情と頭での理解が乖離した作品はなかったな~と思いながら。。。 ★★★☆☆
以前にも書きましたが、この作品は「グリコ・森永事件」をモチーフにした作品です。
第1章、第2章で、犯人グループ結成までが描かれます。 ここは秀逸。最近、「格差社会」が、何やら政治家たちのキーワードになっているようですが、こんなに前に、どうしようもない思いを抱えながら生きている人たちに目を向けた、高村薫の慧眼に敬服します。 「レディ・ジョーカー」というグループ名に、何ともやりきれないもの悲しさを、息苦しい思いとともに感じます。 第3章『事件』で、日之出ビール社長城山が誘拐され、解放されます。 ここからは、会社、警察、新聞社の動きが細かく描写されていきます。 その中で、会社の、社会の暗部との繋がりや、警察内部の動き、新聞記者の独自調査などが描写されます。 第1章、第2章に比べると、次々と事が起き、様々な人がそれぞれの立場でものを考え、行動するため、展開がとてもスピーディ。 何やら社会の裏事情のようなものも飛び出して、事件がどんどん大きく複雑になっていきます。 第4章からは下巻です。 第4章『恐喝』、そして第5章『崩壊』と、たくさんの人が死んでいきます。(あるいは行方不明になります) この辺は、もう犯人グループ側の物語より、企業が恐喝されるという事態に照準が当てられています。「恐喝」というタイトルは意味深です。ここでは、組織あるいは権力の前に、個人はいかに無力であるか、ということが、執拗に描かれます。 う~ん、政治家ってそんなに権力を持っているものなのか~。闇の社会はにらまれたら恐いのね~とは思うけど、正直言ってピンと来ない部分でしたね。 まぁ、ごく普通の生活をしていたら、ピンと来るほうが逆にヘンだとは思いますけど。 どうでもいいけど、ここで問題になっていた株価操作の手口。私も同じことを考えたことがありました。そうすれば随分儲けられるんじゃないかな~なんて。実際にはそんなこと、できない仕組みになっているんでしょうね。今度夫に聞いてみよ。 下巻では、社長城山は苦悩の塊になっています。 事件をたどっていけば姪の結婚問題から端を発していたというこの皮肉。自身の子どもではなく、姪というところが微妙です。 城山自身が自分のことをどう思おうと、この方は誠意の人だと思います。そういう人だからこその苦悩だったと思います。 組織のトップとしてのあり方が、もしかしたら理想に近いのかもしれないと思います。 また、あまり光が当たってはいませんでしたが、城山の部下、倉田もまた、組織のために働き、組織に裏切られたと感じたとき、何を思ったのか。その胸の内を聞いてみたい気がします。 城山にしろ、倉田にしろ、また事件の犯人たちにしろ、登場人物たちは、社会を震撼させた大きな出来事を目の当たりにして、何かが少しずつ変わっていきます。人間の内面が変化していく過程は劇的なものではないのですね。 その辺の行きつ戻りつの過程を、作者は執拗に描きます。 あまりに綿密に描かれているので、変化したことにも気づかないぐらい。実際、人間の心の変化というのはそういうものなのかもしれないと思います。 ラストシーン。じいさんの目つきが気になります。普段は穏やかな目をしているのでしょうか。そんなに簡単お気楽なものではないのかな~。何かしらザワザワとする思いを持ちながら、本を閉じました。 で、最後に本筋とは関係ないことです(*^_^*) この作品には、『マークスの山』『照柿』でおなじみの合田刑事が登場します。 合田雄一郎、この人は、今回もなかなか活躍しているわりに、内省が多いです。 客観的に刑事にとても向いていると思うのに、その情熱が、とか、組織においては、とか、何だかそんなことをぐちゃぐちゃ考えている合田刑事は、読めば読むほど分からなくなってくる人です。 義兄加納祐介との関係も、最後になってひょ~っというすばらしいものに発展しそうな勢いでした。 この先、合田刑事の出てくる作品が出されても、何だか恐くて読めないな~。いや、やっぱり気になるから、読んでしまうかな~(^^;) いつも合田刑事と対で登場していた加納検事は、今回は弱い部分を合田に見せています。何だかそれも、いや~。。。と今さらながら私が照れてしまったりして(^^;) まぁ、それはそれで置いといて。。。 合田刑事に会いに来たという、アトピーの刑事さん。あれは合田刑事の相棒だった森刑事、通称「お蘭」ですよね。幸せに暮らしているようで、とてもうれしかったです。 スポンサーサイト
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高村薫さんの「レディ・ジョーカー」に圧倒されたあと、大沢在昌さんの「闇先案内人」を読んだら、妙に戦闘的な気分になってしまった。いかんっ。私はまったりした気分が好きなのに。で、次に手に取ったのは…「傷口(KIZU) 」「殺手-ヒットマン-」篠原烏童さん。香港ノアー 徒然花茶【2006/05/26 21:59】
この夏に連載の始まる、高村薫の新作に合田雄一郎が登場するようだ、という情報に接してから、合田が登場する未読のものを片付けている(笑)わけですが、「照柿」に続き、このたび「レディ・ジョーカー」を読了しました。(1)「レディ・ジョーカー」一味(笑)(2)〓日 避難場所【2006/07/01 17:20】
ページを開いた瞬間から、ひきこまれました。
宮部みゆき『理由』より面白い、という人がいるのも頷けます。まだ最後まで読んでいないので、なんともいえませんが。
こんがらがっていて、うまく説明できないんだけど。
あらすじは、ようするに日本ビール界最大手の... 自由の森学園図書館の本棚【2009/01/25 13:44】
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