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「木洩れ日に泳ぐ魚」恩田陸
2007 / 12 / 03 ( Mon ) 10:57:54
久々の恩田さん。
まるで舞台を見るように、密室の中の心理戦を描いたこの作品を堪能しました。
いや~、恩田さんの筆が冴えわたった作品でした。

★★★★☆

彼の目が宙を泳ぐとき、私はいつも木洩れ日が揺れるのを見る。
ちらちらと揺らめく光の中を、私たちが言葉にせず押し殺してきた感情と欲望の欠片が、一瞬影のように横切っていく。
木洩れ日の下には、深い淵があって、濃い緑色の水の底に多くの魚たちがうごめいている。
魚たちは時折水面近くまで上がってきて尾びれを翻したりするが、いったいどれくらいの魚が棲んでいるのか、彼らがどんな姿をしているのか、見ることができない。



舞台は、とあるアパートの一室。
同居していた彼と彼女は引っ越し作業を終え、明日、別々の道を歩き出す。
彼は彼女が、彼女は彼が、あの男を殺したのではないかと疑っている。
今日をおいて真相を知る日はない。
それぞれの思惑をはらませて、一夜が始まる。



高橋千浩と藤本千明。
そもそもどういう関係なのか、最初は明らかにされません。
1章ごとに語り手が交代する構成が、次第に彼らの背景を浮かび上がらせます。
2人の間に漂う空気は、かつて恋人であっただろうと思わせます。

ユーミンの曲、『真珠のピアス』の話をしたり、
途中で煙草を買いに出たり。

ごくごくありふれた光景が挟み込まれ、
ひたひたと不穏な空気が漂います。

この辺の空気感が絶妙。
私は、もう既にこの2人の舞台に釘付けになっています。
2人の関係が明らかになり、私は、ここには語られていないドラマを想像します。
禁断の匂いが魅惑的な、手垢のついた物語。

出会いの頃。
偶然見つけたあの男。
ゆらゆらと過去にさかのぼりながら、
少しずつ明らかになっていく「あの日の出来事に隠されていた意味」。

ふむふむ。あの男との関係も分かり、恩田さんはこれからどう料理していくのか、興味が湧きます。

共有しているはずの記憶の齟齬から、徐々に姿を現そうとする黒々としたモノ。

「ひょっとして、僕たちは何か重大な間違いをしでかしているのではないか?」

大きく舞台が揺らぎます。
私は、足場を失ったような不安を感じます。
けれどもその一方で、今まで感じていた小さなほころびが、1つの形に集約されつつあることも感じます。

彼と彼女の関係と、あの男を巡る物語と。
舞台の上では、いつのまにか2つのストーリーが絡み合い、進行しています。

彼女の記憶に不自然なものを感じつつ、それが大きな火種になることを予感しつつ、あの男との出来事に整合性のある説明が加えられていくそのさまに、クライマックスが近いことを感じさせ、期待が高まります。

「過去が追いついてきた」

動転した彼が自分の中に見たものと、
この期に及んで嫉妬に身を焦がす彼女が彼の中に見たものと。

ものすごい緊迫感。
2人の熱演を前に、私は何も考えられません。

そして、彼女の取り戻された記憶。
置いてけぼりをくらう彼。

彼女は彼女の記憶をもって、2人の間の真実をつかみます。
真実を知ったとき。
2人の対比が、双方から語られます。

関係が決定的に壊れる、まさしくその瞬間を、私は確かに目撃します。
どこかあっけなく、どこか滑稽。そんな感じをいだきます。

その後の彼女が辛辣。

「もしあの男と、この男が似ているとしたらーされげなく目の前の事実に知らんぷりをし、責任を回避して、逃げるところがそっくりだとしたら」

さっきまで、あれだけ激しい感情の渦に呑み込まれそうになっていたのに。
女性のしたたかさ、怖さを感じ、同じ女性ながらぞくっと身震いしてしまいます。

そして凪。

それでも舞台は、物語を紡ぎ続けます。
ちょっと疲れを感じつつ、私は2人の内省に耳を傾けます。

いつものように透徹した目で自分を見つめる彼女。
初めてのように自己の内面に触れる彼。

捉えようとすればするほどこんがらがる「感情」の不思議。
何が本当で何が偽りか、わけが分からなくなってくる2人。

そして疲れ切って、つかの間の安寧に身を委ねる誘惑を感じ始めた2人。

ラストはどうなる。
そんな思いで息を殺して見ている私。

暗転。
明るくなった舞台。

「逡巡に、迷いに、決められない何かに引導を渡す」朝が来る。

幕切れは何ともあっけなく、けれどもどこか清々しく希望をはらんで。


客席に1人残された私は席を立ち、う~んっと伸びを1つして、幕の下りた舞台を後にしました。

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*Comment  Thank you*
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  ◆◆

こんばんは。
まるで舞台の実況中継+心の告白のような、
物語に寄り添ったレビュー、
読んだ時のことを思い出して、いつの間にか酔いしれていました。
ふたりの心理戦にドキドキはらはらでしたね。
そして、甦る記憶を共有した気がしました。
by: 藍色 * 2007/12/11 01:11 * URL [ *編集] * page top↑
  ◆◆

藍色さん、おはよっ♪

こんなダラダラの感想文(にもなってないか^^)を読んでくださってありがと~\(^o^)/

>ふたりの心理戦にドキドキはらはらでしたね。

うんうん♪私も、この作品に「酔いしれた」かも。
いい時間を過ごせました(*^_^*)
by: そら * 2007/12/11 10:01 * URL [ *編集] * page top↑
  ◆◆

こんばんわ^^
TBとカキコありがとうございました。
お、デザインが変わりましたね^^
クールな感じが素敵です。

舞台のようでしたよね~
このピンと張り詰めた空気感が小説で引き出せるって、恩田さんは凄いと思います。
臨場感を書く天才ですね、恩田さんは。
by: 苗坊 * 2007/12/11 22:46 * URL [ *編集] * page top↑
  ◆◆

苗坊さん、こんにちはっ♪

>TBとカキコありがとうございました

何をおっしゃるうさぎさん(*^_^*)
お忙しいのに、先に記事を見つけて、TBとコメントを残してくださるのは苗坊さんじゃないの~♪
いつもいつもありがとね~\(^o^)/

テンプレート、クール?
わ~い\(^o^)/
クリスマスにしては地味かしらんと思っていたところでした。
ま、見やすいからいいか。
苗坊さんも褒めてくださったことだし(*^_^*)

>臨場感を書く天才ですね、恩田さんは。

うんうん!本当に♪恩田さんじゃなきゃ、ここまで緊張感あふれるものにはならなかったかも…なんて思います。
恩田さんの作品、結構久しぶりだったんだけど、またまた読みたくなりましたv-221
by: そら * 2007/12/12 12:21 * URL [ *編集] * page top↑
  ◆こんばんは。◆

TBさせていただきました。

久しぶりに続きが気になって次に日に回せずにいっきに読んでしまいました。

読みながら二人芝居っぽいなぁと思っていたのですが、そらさんの感想、舞台のように書かれていたのでとても面白く読ませていただきました。
by: masako * 2008/02/24 19:21 * URL [ *編集] * page top↑
  ◆◆

masakoさん、はじめまして♪

TB&コメント、ありがとでした~\(^o^)/
TBのほうは、ちょっと迷子になってるみたいでごめんなさいね。FC2は、どうも迷いやすいところみたいです(^_^;)

>久しぶりに続きが気になって次に日に回せずにいっきに読んでしまいました。

分かるわ~。
どんどん引き込まれていきますよね~。
ライブ感というのかしらん。目の前でドラマが繰り広げられている感じ。
私も、一気読みだったと思います。

そんなもんで、この記事も、「そのときどう感じた」程度しか書いてない、でもその割には長くまとまらないものになってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがと~\(^o^)/
うれしかったです。

よかったら、また遊びに来てくださいね。
いつでもお待ちしてますよん♪
by: そら * 2008/02/25 00:46 * URL [ *編集] * page top↑
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装画は佐々木悟郎。装幀は中央公論新社デザイン室。「婦人公論」2006年1月22日号~2007年2月22日号連載に加筆。 高橋千浩と藤本千明が、数年間一緒に暮らしたアパートで迎えた最期の夜。二人とも、一年前に旅先で起 粋な提案【2007/12/11 01:19】
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